Adachi Times

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胚を見守り続けて30年以上―胚培養士の日々

保険適用で不妊治療はこう変わる!

小濵 奈美(胚培養士)

不妊治療が保険適用に!

2022年4月から不妊治療が保険適用となりました。どんな風に変わったか、保険適用とはどういうものか、保険適用になると決まった時から私なりに勉強しました。

まず注意。テレビなどで言われていることで一部違うことがあります。「保険適用になって、助成金が無くなり、余計にお金がかかった」「保険適用になったから最先端の技術ができない」等々。

今回の不妊治療の保険適用はとても良く考えられています。今まで高額で受けるのをためらっていた方々のハードルを下げてくれています。

今回の保険改正で一番大きなことは、人工授精(AIH)、体外受精などの生殖補助医療(ART)が保険適用や先進医療となったことです。3月までは助成金が申請できたのですが、その制度はほぼ無くなり保険適用となります(少し残る市町村もあるようなウワサも聞きました。お住まいの役所で聞いてみてくださいね)。人工授精(AIH)は年齢・回数の制限はありません。生殖補助医療(ART)は42歳まで。胚移植の回数には制限があります(後ほど詳しく説明しますね)。

保険適用ビフォーアフター

当院の場合ですが、今までAIH当日には自費で2万円くらいかかっていました。それが保険適用になり7,000円弱でできるようになりました! 負担が全然違いますよね。

あと、今までタイミング法までは保険適用だと思っていたのですが、間違っていました。今まで(2022年3月まで)は不妊治療は保険適用ではなかったのです。

??? どういうこと?? 保険でホルモン検査したり、卵管造影検査したり……色々検査してましたが……。

今までは、原因検索(検査)をしてどこに異常があるか見つける→原因疾患への治療をする。例えば……

原因に対しての治療が認められていただけ。厚生労働省の『不妊治療の全体像』というフローチャートを見て、目からウロコでした! そうなんです! この4月からは『不妊治療の保険適用』、つまり原因検索して治療しても奏功しないものや原因がわからないものに対して行う治療、タイミング法、人工授精、生殖補助医療が新たに保険適用にという意味だったのです。

なので、タイミングをもつ時期を推測するための卵胞計測の超音波検査も、1回は認められるようになりました。今までは処方された薬の効果を診察するための超音波検査だったんですね。人工授精を決定するための超音波検査も認められ、人工授精そのものが保険適用となりました。その上、精液の洗浄などを行ったものにです。

そして、人工授精を何度か行ってもうまくいかない場合や卵管の通過性に異常がある場合、精子がとても少ない場合などに生殖補助医療(体外受精や顕微授精)が認められたのです。

生殖補助医療への保険適用

「人工授精を5回受けたけどうまくいかないな」、「そろそろ体外受精を考えようかな」、「いくらかかるんだろう」。そう考えている方々はチャンスだと思います! 保険適用によりハードルがと~っても下がりました。

でもTVニュースでは、「保険適用になったが助成金の方が良かった」、「最先端の医療が受けられられないから自費でしている」など、あまりいいウワサ聞かないなあ……と不安に感じている方もいらっしゃると思います。

大丈夫です! 助成金をもらうより安くで済みます。最先端の医療が受けられるように『先進医療』が認められています。迷っている方、心配ご無用! ちゃんとした治療が受けられるように考えられています。

当院での体外受精の流れは、体外受精の説明動画をみて理解していただき、同意書を提出。卵巣年齢の目安となるAMHを測定して、体外受精治療が開始となります。

①卵巣刺激(卵子を育てます)

AMHの値を参考に医師がその方に最適と思われる刺激方法で治療計画をたてます。保険適用により高価な薬が3割負担となります。働く女性にも受けやすいように自己注射もかなり採用されています(自己注射教室を事前に受講していただく必要ありますが予約制なので休み希望も出しやすいですよね)。

いくらくらいかかるのか。これは個人差がありAMHが低めの方は注射量が増えるので高くなりますし、卵胞の育ちがゆっくりな方は注射回数や受診回数が増えます。2~4万円くらいの方が多いのでは、と思います。

②採卵(卵子を採取します)・授精(卵子に精子を授けます)

この日は簡単な日帰り手術と考えてください。そして授精まで行います。

採卵術3,200点
1個+2,400点
2~5個+3,600点
6~9個+5,500点
10個~+7,200点

体外受精・顕微授精管理料は下記のとおりです。

体外受精4,200点
(顕微授精と併用の場合は2100点)
顕微授精 1個4,800点
2~5個6,800点
6~9個10,000点
10個以上12,800点

点とは?? ここでは保険点数です。3割負担だと3倍になります。

例えば、10個採卵して、5個体外受精、5個に顕微授精をするつもりが1個未熟卵、4個の成熟卵に顕微授精したとする(未熟卵は使えないので保険算定上の採卵数は9個となります)。

3,200(採卵術) + 5,500(9個) + 6,800(顕微授精4個) + 2,100(体外受精併用)

合計17,600点=52,800円となります。ただ、麻酔代や薬剤料が別途かかりますので6~7万円となります。

③受精卵・胚培養(受精卵(胚)を育てます。)

培養も個数で保険点数が違います。

1個 4,500点
2~5個6,000点
6~9個8,400点
10個以上10,500点

そして着床率の高い胚盤胞まで育てると加算されます。

1個 1,500点
2~5個2,000点
6~9個2,500点
10個以上3,000点

7個受精したとすると… 8,400+2,500=合計10,900点=32,700円 ですね。この後は胚を凍結したり、移植したりとなります。

④胚凍結保存(胚を一旦凍結します)

胚凍結1個5,000点
2~5個7,000点
6~9個10,200点
10個以上13,000点

と決まっています(あくまで2022年4月現在です。これについては今後変更される可能性高いです)。

ここで注意が必要です! それぞれの施設により胚凍結保存のルールがあります。当院では、移植4回分(クライオトップ4本最大8個)までと決めています。クライオトップというデバイスに胚を1個か2個載せて凍結します。

というのは、今回の保険適用では胚移植回数に制限があります。40歳未満は6回まで、40~42歳までは3回まで。良好な胚を移植することで保険適用範囲内で妊娠していただきたい。

当院では、凍結融解に適した胚かどうかをグレードやスピードなどで判断して凍結保存しています。グレードが低く、凍結・融解に弱そうな胚を凍結するより、もう一度採卵してグレードの良好な胚を凍結・移植した方が、保険適用の6回(3回)以内に妊娠に繋がると考えるからです。

幸い、採卵回数に保険適用の制限はありません。凍結胚をすべて移植してしまい移植可能胚がない場合にはもう一度採卵が可能です。

しかし、凍結保存胚があるのに採卵をすることは原則できません! (※例外:子宮筋腫の手術をしたので半年間は妊娠できない。それまでに胚を移植6回分まで凍結する必要があるなど、医師の判断で採卵は可能です)

ARTの保険適用の大原則は、『子供を望む夫婦が妊娠するために保険適用で採卵して保険適用で胚を移植する』なのです。唯一認められているのが、2022年3月以前に凍結保存した凍結胚を融解して移植する場合は保険適用可能ということとなります。凍結保存胚があるのにもう一度採卵し直したい……は原則できません。

あともう一つ。凍結保存維持管理料というのが年に1回、3年を限度に保険適用可能となっています。ただ「妊娠等により治療を中断されている場合は患家の負担とする」という一文があります。1年以上凍結保存されている方のほとんどは妊娠・出産により治療を中断されている場合なので、凍結保存維持管理料はほとんどの方が保険算定不可ということになります。

胚移植について

つぎは胚移植についてです!

①新鮮胚移植7,500点
採卵して育てた胚を凍結せずに子宮にいれます
②凍結・融解胚移植12,000点
凍結してある胚を融解して子宮に入れます

そして、ちゃんと効果のある技術の使用も認められています。

アシステッドハッチング1,000点
卵や胚には透明帯と呼ばれる殻のようなものがあります。
その殻に切り目を入れて孵化しやすくします。

適用は…

  1. 透明帯が厚い方
  2. 凍結保存したことによる透明帯の硬化が考えられる方
  3. 栄養外胚葉小胞がある方(顕微授精の穴から圧が抜けて孵化しづらい場合あり)

一度移植したが着床しなかった方には……

高濃度ヒアルロン酸含有培養液1,000点

こちらを使用して移植できます。

今まで2~3万円くらい自費でかかっていた技術が3,000円で受けられるのです。すごくないですか? テレビニュースなどで「保険になって最新技術が使えなくて……」など聞いたことがあるかもしれませんが、それは特殊な例です。実際には、一般的に使用する最新技術は保険適用や先進医療で認められています。

先進医療とは

ところで、これまでに何度か出てきた「先進医療」とは? 自由診療と保険診療と併用することは「混合診療」にあたるため禁止されています。しかし先進医療として実施される医療技術に限り保険診療との併用が可能なのです。

ARTにも数種類の『先進医療』が現在認められています。例えば、この記事にも登場しているタイムラプス! タイムラプスは本当に優れた培養器です。当院でも使用して2年くらい経ちましたが凍結できる良好胚盤胞がとても増えました。移植時に使える「SEET法」という治療も先進医療で認められているので、保険治療と併用できます!

その他にも「二段階胚移植法」、何度か移植しても着床しなかった方への処置「子宮内膜スクラッチ」、何度か移植しても着床しなかった方への検査「子宮内膜着床能検査(ERA)」、「子宮内マイクロバイオーム検査(EMMA+ALICE)」などが保険適用が認められた先進医療になります。

保険適用で治療の総額はどうなる?

以上、保険適用について簡単に説明してきましたが、だいたい理解していただけたでしょうか?

「結局、いくらくらいになるのですか? だいたいで良いんです」とよく聞かれるのですが、この記事を読んでいただいてわかるように、採取できる卵子の個数、受精卵の個数、凍結個数などで値段が変わるので、本当にわからないんです。すみません。

ただ一つ言えることは、1ヵ月の当院での負担額は高額医療制度の限度額までに収まるということです(ただ、先進医療は自費なので限度額にプラス負担となります。あと注射や薬代は薬局でのお支払いとなるのでこれもプラス別途ですね)。

ART治療を開始すると、平均的には2ヵ月(場合により3ヵ月)くらいかかります。採卵・授精・培養の月は限度額に達する場合が多いですし、逆に胚移植の月は限度額まで達しない、など色々なパターンとなります。

やはり文章にするには難しいですね。わからないことや質問などあれば是非私にきいてくださいね。

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小濵 奈美

足立病院生殖医療センター培養士長。生殖補助医療胚培養士。京都大学医療技術短期大学部卒。趣味はスキーと水泳とサーフィン。